ルールズ・オブ・プレイ(上)
ゲームデザインの基礎
ケイティ・サレン、エリック・ジマーマン 著
山本 貴光 訳
ISBN 978-4-7973-3405-0
ページ数 648
価格 4620円 (税込)
出版日 2011/01/26
長く待ち焦がれていた書籍の日本語版が発売になりました。
ケイティ・サレン/エリック・ジマーマン「ルールズ・オブ・プレイ(上) ゲームデザインの基礎」(ソフトバンククリエイティブ)です。
この「ゲームデザイン」を網羅的に議論しているこの本は、今後、日本でも「ゲームデザイン」について議論する上では、必ず押さえておく必要がある書籍と言ってもいいでしょう。ヨハン・ホイジンガや、ロジェ・カイヨワ「遊びと人間」といったゲームデザインを行う上ではヒントになる知られている書籍は存在していますが、その議論以後、どのような議論が行われてきたのかは包括的に伝えられていません。それを、最新の考え方を網羅することでまとめ上げようとしたのが、この本です。
哲学的な思想書でもあり、工学的なアプローチとしても読める物でもあり、文化論でもあり、ゲームデザインを行う上でのヒントとなる考え方が提案されている本です。様々な考えが、まとめ上げられており、ゲームデザインを行う人のための使いやすい多数の概念を見いだせます。
2003年にMIT Pressから出版された書籍ですが、この書籍をゲームデザイン分野で、歴史的な価値を持つ書籍にしようという高い理想を持って書かれた本であることがすぐに理解できます。オリジナルの出版から7年半が経過していますが、内容が古くなったかというと、むしろ逆で、アナログゲームからデジタルゲームまでを扱う概念にすることで、変化していない普遍性を感じさせます。
私自身は、まず著者の一人であるゲームデザイナーであり、IGDAニューヨーク支部の中心人物の一人の
エリック・ジマーマンと知り合い、今度こういう本を出すんだよと、2003年のGDCで聞きました。そして、発売後に、現在の日本デジタルゲーム学会(DigraJ)の前身組織である東京大学ゲーム研究プロジェクトの輪読会でこの本に本格的に出会いました。その内容に、衝撃を受けたのを覚えています。
彼がニューヨークに持っていたインディーゲームのスタジオが開発した「Dinar Dash」は、現在のソーシャルゲームのレストランゲームの祖型になりました。(残念ながら、彼のスタジオはいろいろあって解散。ただ、相変わらず、ジマーマンは、
Game Developers Conference の顔の一人として大活躍しています)
この本を読んだ後、日本でも多くの方が、自前のゲームデザイン論を行われている姿を見てきましたが、この『ルールズ・オブ・プレイ』を踏まえた上で、議論が進められていたら、もっと優れた物になるだろうなあと、何度も思ってきました。
しかし、この本は大著であり、扱っている分野も半端なく広い。古典哲学、フランス哲学、統計学等々、専門用語がどんどん出てきて原書を読むときにも難渋したのを覚えています。しかも、様々な日本で知られていないゲームの名前も次々に登場します。そのため、ゲームのことをちゃんとわかっていなければ、的確な訳は不可能に近い。
翻訳者として、元ゲーム開発者でもある山本貴光さん(
@yakumoizuru ブログ
http://d.hatena.ne.jp/yakumoizuru/ )が、どれだけ苦労したのかは想像に固くありません。しかし、その難しい書籍の翻訳に挑戦し、上巻の翻訳を上梓されました。内容は期待通りで、日本語なので、実にわかりやすい(そうかといって、決して軽い本ではありません。全力で頭を使うことが求められます)。たくさんの読みやすい訳注や、日本語に対応させたカタカナのルビ表記など、こうした複雑な概念を説明しなければならない書籍がぶつかる問題点を、日本語でも読みやすくするように様々な工夫を凝らして、理解が容易になるように最高に気を遣ってくださっています。
この本の登場によって、欧米圏では様々なゲームデザイン論が登場することになりました。この翻訳書の登場は、日本でも、ゲームデザイン論を、正面から新しい地平を切り開くための基盤となると思います。
残されている下巻の発売は年末を予定されているとのことですが(まだまだ、理論の根幹の一つ重要な「ユニット3 遊び」が残っています)、楽しみに待ちたいと思います。
同時に、言うまでもなく、翻訳書がないからという理由で、この本を読まないで、ゲームデザイン論を語ることは、もう許されません。それほど、この本から多くのことを学べるでしょう。この本から多くのことを汲み上げられるでしょう。
引用:
ゲームという媒体が見えている革新的な可能性と、ゲームの開発の主流が保守的であるという現実とのあいだに、それは大きな食い違いがあるのです。このことこそ、『ルールズ・オブ・プレイ』が、「ゲームは何をなすのか」という概念の分析にとどまらない点なのです。つまり、この本は「ゲームには何ができるのか」ということも吟味し、そこからさらには「ゲームは何をすべきか」ということにまで及ぶのです。(フランク・ランツの「序」より)